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10/13 プロレスラーの副業事情 最凶キングコングがフィナンシェ屋となった理由とは? 近藤修司インタビュー

 近藤修司が手がけるバターブラザーズはフィナンシェ専門店で、2021年10月9日に近藤の地元・静岡県富士市にオープン。今年2周年を迎えた。店舗のほか、通信販売でも購入可能で、百貨店や駅構内でのポップアップストアなども展開してきた。そして自身が参戦するNOAHやDRAGONGATEなどの会場でも販売され、プロレスファンにも知られるようになった。では、なぜ近藤が副業をするようになったのか、なぜフィナンシェだったのか。今後の展望なども含めて聞いた。

 鈴木みのるのアパレルショップ「パイルドライバー」を筆頭に、副業を手がけるプロレスラーも珍しくなくなってきた。近藤もその一人。フィナンシェ専門店をオープンし、2周年を迎えた。フランス産の発酵バターを100%使用した素材へのこだわりが売りで、好評を博してきた。

 政府が働き方改革の一環で副業を促進する施策を打ち出したことで、社員の副業を認める企業も増えてきた。そのような情勢もあるが、フリーランスの近藤には当てはまらない。では、なぜ副業を始めたかと言えば、その理由は単純明快。「生きなきゃいけない」というものだ。

 近藤は現在45歳。プロレスラーとして残された時間は決して長くはない。引退後のセカンドライフをどうするかはプロレスラーにとって古くからある課題の一つ。過去にそのシステム作りが提案されたことも何度もあったが、具体化されず現在に至っている。「要は人間100年生きるわけでしょ。逆に言ったら生きなきゃいけないわけじゃない? 自殺できないから。嫌でも生きなきゃいけない。100年もレスラーできないよね。ってことはまたゼロから何かを始めなきゃいけない」と引退後の人生への危機感が突き動かした。

 そこで近藤が始めたのが炭焼豚丼専門店。2021年4月にオープンしたものの、人任せにしていたこともあって軌道に乗せられないままとん挫した。次に着手したのがフィナンシェ専門店だった。知人の洋菓子店から勧められた近藤は「成功してる人から言われたら、そのままフィルターを通さずに言われたことをやれる」と何の抵抗も抱かず決めたという。明確な勝算はなかったものの、「どこの洋菓子店でもやってる感じ。ただ専門店が少ない。だからチャンスはチャンス」と言うように、まだ競争が激化していない段階でスタートしたことも近藤にとっては幸運だった。

 製造はパティシエ任せで、近藤自身は実食して味を確認するだけ。「これをどう維持して、どう大きくしていくか」に注力している。そして2周年を迎えたものの、プロレスラーに例えると「やっと基礎体とかに慣れ始めたぐらい。まだその段階だね。受け身が始まったぐらいかな」とまだデビュー前レベルと考えている。まだプロレスラーとしての収入が大きく上回っており、「次の段階にいかないと、このままじゃやっていけないというか、大きくできない」と痛感。3年目に突入し、規模を拡大するつもりではいるが、「その選択肢の中にお店を増やすのか、売り場を増やすのか、フランチャイズにするのか、どこを選択していくかが求められて、そこにはリスクがあるし」と岐路に立たされている。

 かといって失敗をそこまで恐れてはいない。バターブラザーズは会社化せず個人事業主として運営しているからだ。だからこそ「結局レスラーはプロレスしかしてないわけだから。ビジネスについての勉強なんか実践して失敗してってやらないと、たぶん何も身につかないんだろうなと」、「いろんなことを学んで、ダメだったら違うことやればいい」との姿勢で取り組んでいる。

 その中でこだわっているのは現役レスラーであり続けること。「本当にレスラーやめちゃったら誰も助けてくれなくなるから。今レスラーだから、こういう仕事をやって面白がって、いろんな人が助けてくれるけど、何もない、ただのオジサンが何かをやっても、そうそう助けてくれないよ。だから現役のうちにやるっていうのが間違いなく大事なこと」と言うようにバターブラザーズもプロレスラーだからこそ多くの人に支援されて実現できた側面があるという。経験者として近藤は「今のうちから始めるのが一番いいと思う。これは全レスラーに俺は言いたい」と声を大にした。

 「2周年を迎えたから、また3年目は大きな挑戦をしようと思ってる。世界一を目指す。いろんなものを巻き込んでやっていきたい」と大きな目標を掲げた近藤。「嫌でも100年生きなきゃいけない。だったら楽しくなるように生きたいなと。夢は叶ったからね。プロレスラーになるっていうね。いい思いもしたしさ。次は挑戦ですよ」と言い切った。故・ジャンボ鶴田さんばりの“人生はチャレンジ"の精神でこれからも副業に取り組み、拡大していくつもりでいる。


【近藤修司インタビュー】
――近藤選手の副業は豚丼から始まったと思いますが、その時点で会社を立ち上げたのですか?

▼近藤「個人事業主。ずっと個人事業主できてるからね。ブラザーズも個人事業主でおととしに始めてる。会社じゃないんだけど、会社にするメリット、デメリットもあるから」

――デメリットの方が大きいですか?

▼近藤「今のところはまだデメリットの方が多い気がする。次のステップが法人化なんだろうね」

――全日本時代に「将来、不動産を持って家賃収入で生活したい」という話をしていたのを記憶していますが、その頃からいずれ副業をやらなければいけないという感覚があったんですか?

▼近藤「感覚はあった。要は人間100年生きるわけでしょ。逆に言ったら生きなきゃいけないわけじゃない? 自殺できないから。嫌でも生きなきゃいけない。そのへんを感覚としてわかってる人が日本人の中でどのぐらいいるのかなと。サラリーマンももう終身雇用じゃないわけじゃない? いつ切られてもおかしくない、サラリーマンだからって安定はない。だから副業を勧めてるわけでしょ。僕らだって100年もレスラーできないよね。ってことはまたゼロから何かを始めなきゃいけないわけよ。引退したあと10年とかじゃなくてもっとあるわけじゃない? 100年時代ということは」

――引退後の方が長いかもしれないですね

▼近藤「そう。そこからさらに半分あるわけよ。え、どうするの?っていうのをリアルに考えた。何かあればいいけど、何もないから今のうちから始めるのが一番いいと思う。これは全レスラーに俺は言いたい」

――昔からレスラーは引退後のセカンドライフが課題といわれることが多いですね

▼近藤「本当にそう思う。昭和のレスラーみたいにいい時代の人たちは現役時代にバッと稼いで、その蓄えを持っていれば老後も安心だと思うけど。今のプロレス界は昭和みたいに景気いいわけじゃないから」

――昔はプロレスラーは稼げるという夢を抱けましたからね

▼近藤「今はそういうわけじゃない。昔と比べてレスラーも多いし、間口も広がっちゃったからね。だから、そこでやらなきゃいけないんだよね」

――やろうかなではなくて、やらなきゃという感覚ですか?

▼近藤「そう、やらなきゃいけない。むしろ、なぜやらない?と。本当にレスラーやめちゃったら誰も助けてくれなくなるから。今レスラーだから、こういう仕事をやって面白がって、いろんな人が助けてくれるけど、何もない、ただのオジサンが何かをやっても、そうそう助けてくれないよ。だから現役のうちにやるっていうのが間違いなく大事なこと」

――現役レスラーと元レスラーでは違うと?

▼近藤「全く違うと思う。人間はやらない理由を探す天才って書いてあるのを本で読んだことがあるけど、俺は別にこれがしたいというのはなくて。でも何かしないといけないというところから、できることからまず始めて豚丼やって、潰しちゃって(苦笑) 何も知識がない状態で人にお願いしてやっちゃって、でも財布はこっちっていう。それはよくないんだなと。そうやって失敗して勉強していくのが大事で。みんな失敗してるからさ。いろんな企業を成功してる人もどれだけ失敗してるかって話だから。その中でたまたまどれかが当たって、やり方がわかってっていう感じだと思う。今その段階だから、これでも」

――今は基盤づくりの段階ですか?

▼近藤「勉強中。だって結局レスラーはプロレスしかしてないわけだから。ビジネスについての勉強なんか実践して失敗してってやらないと。教えてくれないからね。実際にやらないと、たぶん何も身につかないんだろうなと。だから事業を成功する人は『何でもいいからやりなさい』と言うんだよね。企画書とかも大事だけど、それを勉強してる間に、やっちゃって実践で学んだ方がいいと。確かにそうだなと」

――勉強しても小難しくてピンとこないところもありそうです

▼近藤「そう。そのためだけにやってるだけみたいになっちゃうから。だってメインはお金儲けをしたいわけでしょ。そこに焦点を合わせないと、その勉強のための勉強になっちゃうから、たぶんあまり意味がないと思う」

――豚丼で失敗した経験が活きていると?

▼近藤「慣れだよね。何かをするって踏み出すことに言い訳がなくなったかな。やればできるんだっていう。次の一歩は抵抗なくなるよね」

――その中でなぜフィナンシェだったんですか?

▼近藤「みんな甘いもの好きでしょ。これも人の助けだよね。知り合いのお菓子屋さんにどんなものがいいかなって相談して、フィナンシェがいいんじゃないって。逆にフィルターがないから、そのままスッと何の疑問も抱かず、まずはやってみるとなったんだよね」

――イチから工程だったりを学んだんですか?

▼近藤「そこのスキームは教えてもらえるから。実際にどうやって作るとか、どんなものが必要かとか。ただ、そこは事業者にとってそんなにいらないところかな。そこにこだわらない方がいいと思う。これをどう維持して、どう大きくしていくかというところに力を注がなきゃいけないから」

――実際にバターブラザーズのフィナンシェは美味しいと思いますが、それなりのこだわりもあるのでは?

▼近藤「そこはうちで雇ってるパティシエさんとかがこだわりを持ってやってくれてるから。俺が作るわけじゃないから。食べて味がOKかどうか確認する。それだけだからさ」

――ショコラ、抹茶など味のバリエーションも増えてきましたが、近藤選手のアイデアですか?

▼近藤「なんとなくこんな感じの味が欲しいよねっていうのを全部パティシエさんに作ってもらってる。優秀なパティシエさんです。基礎のプレーンの味がしっかりしてるから、そこに何を混ぜるかっていうだけなんだよね。やっていくうちに、だんだん課題が見えてくるから。だから今プロレスで言うと、やっと基礎体とかに慣れ始めたぐらい。まだその段階だね。受け身が始まったぐらいかな。次の段階にいかないとなっていうところ。ここを乗り越えないと絶対次にいけないよね、いけても大変で時間がかかるよねっていうところに今いる感じ」

――具体的にどんな課題がありますか?

▼近藤「要は規模を大きくしていかなきゃいけない。その選択肢の中にお店を増やすのか、売り場を増やすのか、フランチャイズにするのか、どこを選択していくかが求められて、そこにはリスクがあるし。事業者はみんなそうじゃない? どっかで詰まって、次いくのにリスクがのしかかると。やっててそんな感じがする」

――そのリスクというのはやはり金銭面ですか?

▼近藤「そう。最初にお金が必要になるから、それで回収できなかった場合やばいからね。ずっとその選択。でも楽しいよ、やってて」

――現状、売り上げ的に好調ですか?

▼近藤「次の段階にいかないと、このままじゃやっていけないというか、大きくできない。そういう段階ですよ」

――ふるさと納税返礼品になっていたり、ポップアップショップを百貨店、デパートなどで展開してきましたが、徐々に広げてきている印象です。

▼近藤「全部縁だよね。プロレスラーだからというのも絶対にあると思う。全部つながってくるから。こういったらあれだけど、プロレスのチケット売るよりは簡単だよ。甘いものってみんな好きだから」

――確かにプロレスというものの味すら知らない人に買ってくださいというのも難しいですね

▼近藤「それはすごく大変。それに比べたら私はまだ楽だと思う。そういう意味でプロレスは難しいよね」

――今後も現役を続けながらが前提になるんですね?

▼近藤「そうだね。フィナンシェの事業がプロレスを追い越した時は一本にするかもしれないけど、まだ追い越してないからね。2周年を迎えたから、また3年目は大きな挑戦をしようと思ってる。世界一を目指す。いろんなものを巻き込んでやっていきたいなと」

――フィナンシェ業界の競争は激しいですか?

▼近藤「そうでもないんじゃない。逆にどこの洋菓子店でもやってる感じ。ただ専門店が少ない。だからチャンスはチャンスだよね。だんだん何が売れるかっていうのがわかってくるから、違うこともやりたいよねと。それもやっぱり勉強だし、実際に現場に出て、今どんなものが売れ筋なのか、これは儲かるとか把握しないとね。チャレンジですよ。人生はチャレンジ。と思いますよ」

――そういえばXの固定ポストでアイリストを募集していますね。

▼近藤「まつ毛パーマだね。次はまつ毛パーマをやろうと思っていて。全くあてもないけど、とりあえず募集してる。それもチャレンジだよ。美容もやりたいんだよね。何でかは自分でもわかんない。思い付き。何となくできそうだなというところでチャレンジしようかなと。何でもチャレンジ。いい話あったら、すぐやるよ。思い立ったらすぐやりたい感じ」

――その姿勢はプロレスでの経験が影響していますか?

▼近藤「違うんだよ。死ねないんだよ。最初に戻るんだけど(苦笑) コロナがありました、プロレス業界やばいよねとなりました、自分もそれなりに年齢いってケガも増えて思うように体が動かない。ってなってくると急に収入が途絶えるわけじゃない? この年でゼロってメチャクチャ怖いよ。アキレス腱切ったときも6ヵ月ぐらい無収入だよ。バイトすらできないじゃない。だってパソコンすら触れないんだから。そんなヤツがじゃあどんな仕事ができますかと。年齢もいってるのに。ここまで(プロレスを)やってきたのに最終的に残りの人生の半分は日雇いみたいになるのってなったら怖くなってきた。自分の未来に対して。何もやってないのに助けてはくれないからね。プロレスやってました、何かありますか?って言っても、あなた何もないでしょって。でも何かやってれば、この人はそういうことをやってる実績があるよね、何かできるんじゃない?って具体的な協力ができてくるから全然違うと思う。誰も守ってくれない。団体すらも守ってくれないよと。レスラーでなくなったら。そういう仕組み作りするのも面白いよねって思ってる。プロレス辞めました、じゃあどうしようって人に対してね。ある程度有名なわけじゃない? それは使えるわけじゃない? そういうのができないかなとフワっと思ってるけど。今は自分のことで必死だから」

――レスラーなのにフィナンシェというギャップも売りになりそうですね

▼近藤「そこは考えてなかった。何でもよかったんだから。そこで嫌だなとか、違うのがいいなってなったら、じゃあ自分で考えれば?ってなるからね。そっちの方がハードル高いよ」

――人から勧められる方が入りやすいと?

▼近藤「入りやすい。成功してる人から言われたら、そのままフィルターを通さずに言われたことをやれる。いろんなことを学んで、ダメだったら違うことやればいい。死ねないんだから。根本は死ねない、嫌でも100年生きなきゃいけない。だったら楽しくなるように生きたいなと。夢は叶ったからね。プロレスラーになるっていうね。いい思いもしたしさ。次は挑戦ですよ」

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